「すべての人に音楽を奏でる喜びを」
電子楽器と共に進化してきた音源技術

「すべての人に音楽を奏でる喜びを」
電子楽器と共に進化してきた音源技術

2022年1月に発表されたCasiotone CT-S1000Vに搭載のカシオの最新音源技術Vocal Synthesis(ボーカルシンセシス)。
歌詞とボーカル音色の組み合わせにより、誰でも気軽に楽器で歌声を演奏することが可能になりました。
この背景には長年培ってきたカシオの音源技術の積み重ねがあります。Vocal Synthesisが開発されるまでの歴史を紐解いてみましょう。

子音・母音システム

デジタルシンセの夜明け、
1980年発売の『カシオトーン201』に
搭載された画期的アイディア

2020年はカシオが電子楽器をスタートして40周年となるタイミングでした。これまでカシオでは画期的なデジタルシンセサイザーを次々と生み出し、音楽シーンにも大きな影響を与えてきました。今でこそ、デジタルシンセサイザー=PCM音源という形で落ち着いてしまっていますが、発展途上だった1980年代には、各電子楽器メーカーの音源方式と切磋琢磨しながらデジタルシンセの世界を盛り上げてきました。

その足跡は、東京・成城にある樫尾俊雄発明記念館に行くと見ることができます。ここにはカシオの計算機の歴史や腕時計、電子辞書の歴史と並んで、シンセサイザーの歴史も数多くの機材が展示されているのです。いずれもデジタルシンセサイザーなのですが、現在と比較するとコンピュータ処理がとてつもなく遅く、メモリ容量も小さく、そして高価だった時代に開発し、製品化したもの。そんな時代だったからこそ、さまざまなアイディアとともに、新しい音源が生まれてきたのです。ここではカシオが最初に作った「子音・母音音源システム」=『カシオトーン201』について紹介していきます。

この音源を使用した楽器例

Casiotone 201(1980年)

PD音源

デジタルシンセ戦国時代、
革新的な技術により『CZ-101』が誕生した背景

1980年代、カシオは次々と画期的でユニークなシンセサイザーを開発し、世界中の人を驚かせてきましたが、前回の子音・母音システムに続き、今回は1984年に発売されたCZ-101に使われたPD音源について見ていきます。PD音源を搭載したCZシリーズは当時テレビコマーシャルでも流れているので、ご記憶の方もいるでしょう。PDとはPhase Distortion(フェイズディストーション)の略で、オシレータの位相を歪ませて波形を合成する、これまでにない革新的な方式のシンセサイザーでした。

1980年代、各社しのぎを削って特許戦争も熱気を帯び始めたころ、カシオはアナログシンセサイザーを構成する各モジュールのデジタル化を進めていました。アナログシンセサイザーの父であるMOOG博士が作り上げたVCO VCF VCAを鍵盤やエンベロープ・ジェネレーター、LFOで制御する、定番方式を元にして、どうやってデジタル化を実現するのか、を模索する中、PD音源のアイディアが生まれ、現代のデジタルシンセサイザーにも繋がる基礎を作っていったのです。そのPD音源とはどんなもので、大ヒット製品となったCZ-101とは何だったのかを紹介してきます。

この音源を使用した楽器例

CZ-101(1984年)

iPD音源

VZ-1に搭載された
直感的な音作りを可能にした音源

1984年にPD音源を搭載したCZ-101を発売したカシオは、リリースとほぼ同時にPD音源をさらに発展させた新たなデジタルシンセサイザー音源の研究開発を開始していました。その結果、誕生したのがiPD音源です。iPD音源は入力波形に対してサイン波などの波形テーブルを通すことで波形変化を実現していく方式で、過激な音は作りにくかったものの、波形変化が規則的で予測しやすく直感的な音作りを可能にした画期的なシステムでした。実際、そのiPD音源がどのように開発されたのか、その背景について紹介していきましょう。

この音源を使用した楽器例

VZ-1(1988年)

iXA音源

PCMとタッチレスポンス、
DSPエフェクトを掛け合わせた新世代音源の誕生

1993年、カシオは『CTK-1000』という、iXA音源を搭載したこれまでにない画期的なシンセサイザーを発売しました。iXA音源とはリアルなアコースティック楽器の音も出せるPCM音源と、鍵盤を弾く強さにより音色が劇的に変化する音源、そして当時シンセサイザーに標準搭載されつつあったDSPエフェクトを組み合わせたというもの。

このCTK-1000にはタッチレスポンス鍵盤を搭載するとともに、電子キーボードの世界ではまだ珍しかった、リバーブ、ディレイ、コーラスなどのエフェクトをかけられるDSPを備えるなど、当時の最先端を行くシステムでした。そんなiXA音源はどのような経緯で開発されたのか、背景について紹介していきましょう。

この音源を使用した楽器例

CTK-1000(1993年)

PCM音源

1986年発売の100万台以上の大ヒット商品、
『SK-1』開発の裏側

80年代前半、数百万円~1000万円という価格だったサンプラーに多くの人が憧れを抱くなか、カシオは1986年に16,000円という、まさに桁外れな低価格で、サンプリングキーボードSK-1を発売しました。コンパクトながら、本体に搭載されたマイクで音をサンプリングすると、それを即、音源として演奏できることを実現したSK-1は、瞬く間に話題となり、100万台以上が売れる大ヒット製品となったのです。

さらにカシオでは1988年にフルPCM音源である電子キーボードのCT-640を発売し、時代は完全にPCM一色ともいえる世界へと転換していったのです。この黎明期を振り返りつつ、PCM音源、サンプリング音源とは何なのかを改めて考えていきましょう。

この音源を使用した楽器例

NEW
Vocal Synthesis

歌詞を指定すればすぐに歌声合成を実現。
CT-S1000Vに搭載された、和音も歌える新技術。

2022年1月これまでにないまったく新たな楽器、CT-S1000Vを発表いたしました。これは指定した歌詞に合わせて歌わせることができるこれまでにない楽器。日本語、英語に対応するバイリンガルであり、和音を歌わせることも可能というものです。テクノスピーチ社のHMM(隠れマルコフモデル)エンジンを中枢に据えるとともに、CASIOの電子楽器音源技術を組み合わせたVocal Synthesisによって生まれたユニークな楽器となっています。

CT-S1000Vは和音で歌わせることができるのが大きな特徴。1音ずつ歌詞を歌わせていくことができるノートモードのほか、テンポに合わせて自動で歌わせることができるフレーズモードを持っているのもユニークなところ。また声質を自由にエディットできるとともに、PCM音源と組み合わせてボコーダー的な音色で歌わせることができたり、たとえばニワトリの鳴き声のような歌声で歌わせることができたりなど、これまでにない新たな歌う電子楽器となっているのです。実際どんな仕組みで動いているのか紹介していきます。

この音源を使用した楽器例