ピアニストが羽ばたくところ ~音楽のためのホールを探して~

第3回

しいきアルゲリッチハウス

(大分県別府市)

ホールの全体像を見る

アルゲリッチハウスから、明日へ繋がっていく未来が始まります。

このハウスから生まれる新しい可能性について、
アルゲリッチハウス副理事長の伊藤京子さんにお伺いしました。

2015年5月、大分の別府に誕生したアルゲリッチハウスは、豊かなサロン文化を根付かせるために、様々なジャンルの人々が出会い、音楽だけでなく芸術、文化などを発信できる場所にしたい、という思いでスタートしました。そして本格オープンまでに時間をかけ、3年間の準備をしようということにしました。その間に、いろいろな方にいらしていただき私たちのサロンが何を目指して行くのかということを、多くの方々に知っていただきたかったのです。
これまでに素晴らしいアルゲリッチフレンズの方々が参加してくれました。世代を繋いでいこうという考えのもと、若いバイオリニストの川久保賜紀さん、チェリストの遠藤真理さんに参加いただき、立ち上げの時から助けていただいたヴィオリストの川本嘉子さん、遠藤さんの先生でもあるチェリストの河野文昭さんにもご出演いただきました。人と人の出会いをテーマにしていることもあり、例えば川久保さんが、川本さんとの共演をご希望されていたので、

ご一緒いただくなど、アルゲリッチハウスからいくつかの新鮮なステージが生まれました。演奏家の単なる組み合わせではなく、その人の持つ意思や個性、何かが出会って何かを生む、そんなスパークするような斬新なものを、見て聴いていただくことを、大切に考えた結果のひとつです。

アルゲリッチハウスで最も記憶に残っている演奏家は、チェリストのミッシャ・マイスキーですね。アルゲリッチとのリハーサルではあるのですが、初めて音を出した時が本当に印象的で感慨深かったです。二人は長い交流があるのですが、それだけに内省の強さが音に変わり、互いの個性がコミュニケーションするような信頼感と「音楽」を生み出していく緊張感を感じました。忘れることができません。
私たちは、聴衆の層を広げたいと思っています。まだまだ地方では、聞いてくださる方が充分には育っていません。だからしっかりと音楽に触れていただき、「こういう作曲家が好きだ」「こんな演奏家がいいな」というような好みをこのサロンで育て、蓄積していただきたいのです。

ただ人気があるから、有名だからということではなく、応援したいとか、ファンになりたいとか、そんな心を動かされるような音楽や作曲家、演奏家を見つける楽しみを知っていただきたいのです。アルゲリッチが音楽を通して作り上げてきた世界、そして魂を受け継ぐ、次の世代が必要なんです。そのために、たとえばアルゲリッチ自身と共演する。そしてアルゲリッチの姿勢を学んでほしいのです。やがて、その人たちが再びアルゲリッチハウスにやってきて、新しい演奏家たちと音楽を共有して、未来に伝えていく。人間の可能性を育てていく。ここはそんなアルゲリッチの想いにあふれたサロンなのです。

「心を育む」というコンセプトのもと、子どもと大人のための
「ピノキオコンサート」を開催しています。

アルゲリッチと共に考え「ピノキオコンサート」という名前をつけました。ご存知の通りピノキオは仲間に助けられ、冒険をしながら「良心」を育て「ものごとの善悪」を知ることで、本当の人間の子どもになりました。この、成長する心を持つ様子に因んで名前をつけました。子どもたちのための教育プログラムとして始めた「ピノキオコンサート」は、アルゲリッチを始め、趣旨に賛同する一流の音楽家たち、〈アルゲリッチフレンズ〉が、音楽だけでなく自らの経験などを語りかける「演奏とおはなし」のコンサートです。

親子で同じ体験をすることで「どう感じたか」を、家庭で話し合い、共有してもらうことが大事だと考えています。子どもはもちろん大人たちも一緒に考え、話す。クオリティの高い演奏を聴いてもらい、心の中で大切に育て、ファンになってもらう。そしてそのことが、人間としてどう生きるべきかということを考えるきっかけになって欲しいと考えています。

アルゲリッチハウスに贈られた、
CELVIANO Grand Hybridを弾いた一流の演奏家たちが、
その印象を語ってくれました。

20才という若さで円熟した音楽を聴かせ、アルゲリッチを驚かせ、第9回浜松国際ピアノコンクールで優勝したアレクサンデル・ガジェヴさん。

「まるで時計のように精巧につくられた“楽器”ですね。弾いているだけで楽しくなります」。

京都市立芸術大学音楽学部(ピアノ)非常勤講師。第35回藤堂音楽賞受賞者であり、歌人としても第12回葛原妙子賞を受賞した、河野美砂子さん。

「電子ピアノがここまで進化しているとは、本当に驚きです」。

第9回浜松国際ピアノコンクールでアルゲリッチ、ネルセシアン両審査員に激賞され(公財)アルゲリッチ芸術振興財団賞、ネルセシアン賞を受賞した沼沢淑音さん。

「本番前に弾きましたがタッチが本番用のコンサートピアノに近いという感じでした。演奏のために指をあたたかい状態にすることをとても大切にしているのでよかったです。コンパクトなのも良いですね」。

DATA

2015年、5月オープン。アルゲリッチ芸術振興財団の名誉理事 故 椎木正和氏からアルゲリッチを顕彰し贈られた音楽サロン。150人収容。響きの美しいサロンには、アルゲリッチ専用ピアノ「マルティータ」が設置されています。ステージと客席を分けず、ひとつのフロアにレイアウトすることで、自由な音楽空間をつくることができます。天井高は9m。大分産の杉板で13.5m四方の壁を囲んであり、どの場所にいても最適な反射音が得られるよう天井や壁同士が平行にならないよう、少しずつ角度をずらして作られた複雑な構造です。将来的にはレコーディングができるよう整え、クラシック音楽の殿堂として知的創造空間を目指す、コンパクトなサロンです。

− しいきアルゲリッチハウス 〒874-0903 大分県別府市野口原3030-1 TEL.0977-27-2299 FAX.0977-27-2301http://www.argerich-mf.jp

Vol.4 OTHER ARTICLESその他の記事

CELVIANO Grand Hybrid ホームへ