main visual

新たなCasiotoneが誕生するまで開発者が語るCT-S1ストーリー

ミニマルデザインの裏側にあるこだわりと試行錯誤

デザインを考えるうえで、参考にしたプロダクトなどはあったんでしょうか?

岡: 音と生活空間との調和、あとはどんな人でも弾きたくなるというところをポイントにしようと。そこで、クッションやソファにも使われるようなファブリック生地を使って、部屋と馴染むようなものにしたいなと思ったんです。それを実際どうあしらうかと考えた時に、サウンドバーって呼ばれるホームシアターなどに使われる長いスピーカーをイメージして。この突き通しの長尺のスピーカーネットを使いたいと相談したら、こんな長いのは無理だと。そもそもそういう生地を使うこと自体が新しすぎて……。

大嶋: 生地が厚すぎて音が出ない。

岡: じゃあ、音が出る生地はどこで調達するんだ?っていう話から始まったんです。

佐藤: 生地の候補もいっぱいありましたね。音抜けとコストとデザイン性、その3つ全部合格するものがないんですよ。

岡: 最初はあらかじめ音が抜けるスピーカーネットの素材の中から探してたんですけど、生活環境との調和っていう点でマッチするものがなかったんです。それで、生地屋さんに行って生地を買ってきて、もちろん音が抜けないのはわかりつつも、“こういうことやりたいんだ”っていうのを実際に見せながら説明したんです。なんとかこれに近い生地を用意できませんか、と。それで最終的に、今の鹿の子生地にたどり着いたんです。染める段階からオリジナルなんですよ。このまだら調の質感をなんとか出してもらえました。たどり着くまでいろいろな変遷がありましたよね。

佐藤: 途中、パターンがありすぎて訳がわかんなくなって(笑)。布だけじゃなくて、布の染め方のことまで言い出し始めたから。大嶋さんは、それに対して文句は言うけど絶対に諦めないんですよ。

大嶋: 取引先では普段扱っていないちょっと特殊な布なんですが、まだら調の生地がデザイナーの求めるところなんだと説明して、新しいオリジナルな布を作ってくれと。じゃあ、そのまだら調は色が濃い糸と薄い糸を交互に編んでいけば作れるといったらそうではないんです。やっぱり特殊な染め方が必要で。糸はどうしたらいいとか、温度はどれくらいがいいとか、こっちも勉強して、何度もやり取りして。最後は、取引先も試行錯誤を繰り返し、新しい手法もチャレンジして、うまく模様が実現できました。

岡: こっちの無理なお願いにも、大嶋さんが動いてくれた。本当に設計部の力があってこそ完成したデザインですね。

佐藤: 家でポロシャツとか見ると、布の件を思い出すよね。これ、鹿の子だなって(笑)。

そもそも3色のカラーバリエーションで展開することになったのは?

佐藤: 実は当初、黒だけだったんです。でも、ライフスタイルへのフィットとか生活空間の調和をテーマにしておきながら、1色はないでしょうっていう提案を、デザインチームから思いっきりねじ込まれまして。

大嶋: ねじ込まれましたよね。デザインモック(模型)をみんなで確認する日に、いきなり見せられたんです。

岡: 模型と一緒に、カラーバリエーションのイメージポスターみたいなものを勝手に作って持って行ったんです。いろんな人の生活空間との調和をテーマに掲げるんだったら、このくらいの色数で打ち出した方が絶対にインパクトがあるし、お客様がイメージしやすいはずっていうのをゲリラ的に披露して。その場で作ろうってなったんです。ただ、そんなことをギリギリで言われた設計部の大嶋さんたちは……。

大嶋: 信じられない!って(笑)。

佐藤: 今回、エレキギターやビンテージ楽器のカラーリングに結構インスパイアされているんですよ。そういう見た目に対してはこういう音があった方がいいよねって、いい波及効果もあって。ビンテージのエレピやオルガンの音色を入れたりしたのも、こういう赤だったからっていうのはありますね。

岡: ちょっと黄色が入っている赤っていうか。

佐藤: そういう色合いをうまく出してもらいました。

では、デザインしていく中でも目指していたというコンパクトさを実現するために、苦労したことというと?

大嶋: 私はずっと楽器を設計してきたわけじゃなくて、他の品目では“軽い、薄い、短い、小さい”ものを目指す軽薄短小の考え方が基本だったんです。だから最初に筐体を作る時にはできるだけ小さくしようと。でも音は損なわれないように音響チームと構造の工夫をしていきました。それが先ほども出てきたエンクロージャー(スピーカーボックス)なんです。メインスピーカーは上向きで、バスレフポートも一般的には同じ向きに配置します。ただ、それだと基板を置くスペースがなくなる。基板自体も回路チームとだいぶ喧嘩して今のサイズにしたんですけどね。ちっちゃい!ってかなり文句言われました(笑)。それで音響チームと相談し、ポートを下向きにしてボックスを削り、そこに基板を置いて、やっと求められるコンパクト感を出すことに成功しました。

岡: 底面についても、色々細かい工夫があります。ハンドリングしやすい形状にしたんですが、持ち上げた時に裏側が見えることがあります。そこで、背面に波状の形を入れ、その波に合わせて穴を作ることでデザインの一部として処理するようにしたんです。

裏側には、ストラップピンも付いていますよね?

佐藤: 楽器は置く場所が大きな制約になりますが、コンパクト化を追求することで、鍵盤楽器もギターや管楽器のように持ち出して使える世界を目指したかったんです。市販のギターストラップを付ければ、テーブルとかスタンドがないと弾けないキーボードが、それこそソファとかベッドの上とか、家の別のシーンで弾けるようになる。ベッドなんかであぐらをかいてその上に乗せても、ストラップがあるだけで安定して弾けたりするんですよ。場所を固定することにとらわれないで、いろんなシーンで使ってほしいという提案ですね。

岡: 実は、白のモデルだけシルバーのピンになっているんですよ。黒と赤のモデルは黒のピンなんですけど。

佐藤: わりと厳しく共通化は図っているんですけど、そういう細かいところでそれぞれのモデルの個性を出そうと何とか頑張りました。

岡: それで言うと、鍵盤の根元に挟んであるフェルト、これも全部違う色なんです。白モデルは茶色、黒モデルは赤で、赤モデルは濃い茶色になってます。

大嶋: 最初は、なんで一緒の色にしないんだろうってって思ったんですけど(笑)。うちのチームのメンバーが頑張って見つけてきてくれました。

デザインと操作性とのバランスはどうやって取られたのでしょうか?

佐藤: デザインコンセプト通りUIもシンプルさにこだわっています。ボタンを一列に並べて、左から順番に音色を選んでいく。本当にそれだけですね。ボタンの数も含めて徹底的にミニマル化することによって機材感がなくなり、生活空間と調和するものになっているんです。

岡: デザイン側としても、すごくミニマルにしたいという思いがあったので、演奏中の視覚的なノイズを極力減らそうと考えていたんです。例えば、ボタンの上の文字もボールドなものじゃなく、長体がかかった縦長のものを選んだり。ただ、単純に削ぎ落としてシンプルにしていけばいいとは思っていなくて。右端のCasiotoneの文字の彫刻は普段の3倍くらい深く彫っていたり、鍵盤の根元を波状にしたり、ボタンも他の楽器より高さのあるものしたり、シンプルにしつつもそういう細かなところで楽器ならではの情緒的な価値を出そうとしていましたね。

大嶋: 細かいところ、すごくこだわってましたよね。

岡: もともと僕は、キーボードを弾けないんですよ。それなのにCT-S1を担当することになったのは、もしかしたら弾けない人でも弾きたくなるようなデザインにするっていう狙いがあったのかなと今は思っているんです。自分目線で難しそうに見えないよう、どれだけミニマルになってるか、使いやすそうに感じるかっていうことをすごく意識してデザインしていました。

佐藤: ボタンの押し心地もそうだし、ボリュームノブを回す感触も、他のモデルと違ってちょっと重たくなっているんです。少し高級オーディオっぽい操作感というか。

大嶋: ボリュームノブはこだわりましたね。佐藤さんが言ったように、高級オーディオのノブの操作感はとてもしっとりしてますよね。うちの今までの製品はライトな操作感を意識していたんですけど、今回このモデルのターゲットを考えた時に、もっとしっとり感があっていいんじゃないかと。それで、ベンダーと協力してデバイスもカスタマイズしました。

岡: あと、黒のモデルは消灯時にボタンのLED の丸い輪郭すら消えるようになっているんです。それもミニマムを追求するというか、ノイズをどんどん減らしたいというのがあったからで。

大嶋: 電源がオンじゃない時は照光部の外径がわからないようにしてほしいと、なんかまた意味わかんないこと言ってるなって(笑)。ボタン自体も、ラバーは嫌だ、プラトップにしたいって、コストがかかる方をリクエストしてくるし。

岡: ボタンを高くしたから、LEDの明るさが足りないとかね。

大嶋: そう、光が足りなかった。特に白モデル。カラーバリエーションを作る時は同じ金型の部品を普通は使うんですけど、今回は変えてるんです。白と赤のモデルと黒モデルでは、ボタンの金型を別に起こして作ったんですよ。

佐藤: CT-S1だけ特別にやったことがたくさんありますね。ユーザーが1つ1つの操作に対してどう感じるか、そのレベルまで想像して調整をしたんです。想いが尋常じゃなく詰まってます。シンプルって言ってるけど、実は一番シンプルじゃない(笑)。

トップへ戻る