
CT-S1000Vを使うJazztronik野崎良太さんにインタビュー
インタビュアー・著 藤本健(有限会社フラクタルデザイン代表・ライター)
CASIOが2022年に発売した、自由に歌わせることができる楽器であるCT-S1000V。鍵盤を弾くことで歌わせることができる非常にユニークな楽器である一方、膨大なプリセット音色を持つPCM音源のキーボードでもあるため、プロも注目している機材。そんなCT-S1000Vを、映画、ドラマなどの音楽も手掛けるJazztronikの野崎良太さんが使用しているというので、お話を伺ってきました。
これまでなかった「歌う」楽器であるため、ライブで幅広い表現ができるという野崎さん。また、純粋に楽器としても気に入っているらしく、ほかにも搭載されているドラムのサウンドについて、サンプル素材では出せない存在感があると語っていました。シンセサイザーマニアでもある野崎さんから見た、CT-S1000Vの魅力について紹介していきましょう。

中学3年生で衝撃を受けたクラシック以外のピアノの世界
ーー野崎さんが音楽に触れるきっかけはなんだったのでしょうか?
野崎:最初のきっかけは、母親が音楽の教員だったので、なんとなくそこから近所の音楽教室に通い始めたことですかね。当時は、嫌でしょうがなかったですが笑。当時は音楽教室に行くフリをして、友達の家に遊びに行ったりしてましたね。小学5、6年のころまでは、通い続けていたのですが、中学では音楽を辞めて、運動の方に力を入れていました。ところが中学3年生ぐらいのときに、いろいろな音楽に出会い、自分から音楽に歩み寄るようになりました。
ーーどういった音楽に出会ったのですか?
野崎:今までクラシックのピアノしか知らなかったので、テレビでRock系の髪の長い人がピアノを弾いているのに衝撃を受けたのは、今でも覚えています。そこから、さまざまな音楽を聴くようになっていったのですが、クラシックをシンセセイザーなどの電子楽器で弾く世界に出会って感動し、どうやったらそういった音楽が作れるのかなと調べたら、皆さん音楽を勉強する大学に行っていたんですよね。それで、中3から高1ぐらいから真剣に音楽に取り組むようになり、大学卒業まで7年間作曲の勉強をしました。初めて電子楽器に触れたのは、親が買ってきてくれたCasiotoneがきっかけでした。Casiotoneは、音がいくつも出せるし、ビートも鳴るので、これを手元にあったコンポで多重録音してみたり、そこから打ち込みにも興味を持つようになり、シンセサイザー、MIDIの世界へと入っていきました。

ーー大学では、生演奏を勉強しつつ、打ち込みもガッツリだったんですね。
野崎:生演奏はピアノを一貫して勉強しつつ、大学生のときにブラジル音楽を知って、そこからジャズに入って行きました。ただ、大学生のころは、ジャズは独学で勉強していたので、最近になってちゃんと勉強するようになりました。日本の大学にジャズのカリキュラムを持ち込んだ超プロフェッショナルの方が居て、1年前ぐらいから週1回1時間半、その人と二人でジャズについて勉強しています。その一方で、デジタルシンセ、さらにはサンプラーの世界にも魅了されていきましたね。自分の音色を作りたいという欲求もあったので、レコードをサンプリングしたり、持っているシンセサイザーの音を録ってみて混ぜたり、ライブラリを作って作品にしていました。
ーーさてCT-S1000Vについてお伺いしたいのですが、使うことになったきっかけはなんだったのでしょうか?
野崎:以前PX-S1100のインタビューをCASIOさんにしていただいた際に、CT-S1000Vについて僕から質問したのがきっかけですかね。個人的にすごいな、と思っていて、そのインタビューとはまったく関係ないのに盛り上がってしまいましたよ。僕は海外のボーカルプラグインで、仮歌を入れたりしているのですが、CT-S1000Vではそれ以上のことができるのでは、と思って気になった感じですね。
ーーちなみに、国内でも歌声合成ソフトは複数ありますが、それは使わなかったのですか?
野崎:僕はあまり興味がなかったんですよね。昨今の音声合成ソフトってキャラクターが強いので、どう曲を作ってもそれはそのキャラクターになってしまうんですよ。そうなると、違うなと。

ーーCT-S1000Vには、可能性を感じますか?
野崎:キーボードだけで、あらゆることができるのは、昔からシンセサイザーを触っていた僕からすると、本当にすごいことだと思います。CT-S1000Vは、自分のライブで結構活かせると思っていて、以前ボコーダーにチャレンジしたことがあり、それはうまく使いこなせなかったのですが、CT-S1000Vには期待しかないですね。まさに僕のために作られたキーボードなのでは、と思ってしまうほどです。歌声合成ソフトと違い、演奏できるというのがポイントと思っていて、本来PCが必要とされるものも、CT-S1000V 1台でこなせるので、特にライブシーンでは重宝します。これだけの新規性、機能性があるにも関わらずこの値段は最初信じられませんでした。
早く活用して勝手に第一人者を名乗ろうと思っています。ポテンシャルが高いので、いろいろなシンセサイザーを触ってきた人ほど、CT-S1000Vのよさを感じるでしょうね。ライブとかで使う人が増えると、全世代に広がると思いますね。このシリーズは、ぜひともCASIOさんに続けて行ってほしいです。インストの曲に1フレーズの言葉が欲しかったりするので、それをCT-S1000Vでは簡単に実現できるので、ありがたいですね。ただ、この面白さと機能の高さは触ってみないと分からないと思います。ぜひ触ってみて欲しいですね。
ーー「歌う」という部分以外にも、お気に入りのポイントなどあったりしますか?
野崎:ドラムの音がいいんですよ。ドラムの音は、EQも必要なく、とにかく使い勝手のいい音色が揃っています。サンプル素材をダウンロードしてきて使う人も多いと思いますが、個人的にそういったサンプルには、薄さを感じるんですよ。やはりハードから音が出ると、存在感もあるんですよね。ダンス系のトラックにはピッタリだと思います。開発チームは、ドラムサウンドにもこだわったのでは、と感じましたね。また、ツマミを回してリアルタイムにエフェクトを掛けることができるので、これも好きなポイントですね。
ーーありがとうございました。
野崎良太 プロフィール
音楽教員の母の影響で幼少期よりピアノを始め、高校から7年間クラシック、現代音楽の作曲を学ぶ。
ジャンルに縛られない数々の作品をリリースし、アーティスト、ピアニスト、作編曲家、DJとして確固たる地位を築いている。
Jazztronikとしてのアーティスト活動でも知られる。
2016年、日本の音楽カルチャーを海外へ広げる事を目的としたプロジェクト『Musilogue』を設立。
野崎がリーダーとして活動する和楽器奏者とのユニット“Hizuru”は海外で非常に高い評価を得ている。
アンビエントミュージックにも造詣が深く、ヘルス・ウェルネス分野で世界No.1シェアを誇るアプリ「Calm」へ和楽器を使った楽曲を提供し話題となる。
近年はピアノソロコンサートの活動にも力を入れている。
自らオーケストレーションまでこなす為、映画・ドラマ音楽にも数多くの楽曲を提供している。
また、20を超える地方都市のプロモーション動画そして数多くのCM等の映像音楽も担当し、クラシック、Jazz、クラブミュージックだけにはとどまらない独自の音楽性は増々進化し続けている。
サウンドプロデューサー、リミキサー、ミュージシャンとしても数多くのアーティストとコラボレーションを重ねており、葉加瀬太郎、柴咲コウ、松下奈緒、AYASA、三浦春馬、TRF、ゴスペラーズ、山崎まさよし、椎名林檎、Hey!Say!Jump、Coming Century、flumpool、クリスタル・ケイ、山本彩等、例を挙げると枚挙に暇がない。
“箱根彫刻の森美術館40周年記念音楽”へピアノ楽曲を提供。2011年1月に発売されたLEXUSのコンパクトハイブリットカー“CT200h”のナビゲーター“世界でも活躍する新進気鋭の音楽家”として選出されWEB、雑誌広告等へ出演。2023年1月には日産Motorsports × Jazz musicの音楽を担当・出演するなど多方面からオファーが絶えない。
過去に野崎良太名義では4つのアルバム『Piece of mind』『Life Syncopation』『bird of passage』『GOODPEOPLE』をリリースしている。
2023年3月に人気ゲームアプリ「機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE」内の『アムロ・シャアモード』にサントラを提供。
Jazztronikとしても2023年4月から「Excursions」シリーズをリリースするなど精力的に活動している。
藤本健 プロフィール
リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。
リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「Cubase徹底操作ガイド」(リットーミュージック)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、インプレスのAV WatchでDigital Audio Laboratoryの連載も行っている。