ピアニストが羽ばたくところ ~音楽のためのホールを探して~

第4回

しいきアルゲリッチハウス

(大分県別府市)

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2月27日、大分のしいきアルゲリッチハウスで、牛田智大さんのスペシャルイベントが行われました。牛田さんは、現在モスクワ音楽院ジュニア・カレッジに在籍中。そこでは「ロシア音楽はマイナスすることを大切にする」ということを新たに勉強中だそうです。「大きな音を出してプラスしていくのではなく、いちばん大きな音があったところから、どれだけ引き算をしていくか。そんな音楽の作り方を学んでいます」「一般にロシアの音楽は勇壮でダイナミックレンジが広いという印象があると思います。

そのロシアのピアニストたちがダイナミックレンジが広いのは、実はピアニッシモ・弱音の種類が多彩だからなのです」「私もこれから、そういう技術とあわせ、音楽の裏側にある内面についての勉強も続けていけたらいいなと思っています」と、音楽への深い取り組みの一端を語っていただきました。

「このサロンで演奏していると、 音楽が美しく、
自然に降ってくるように聞こえます」

当日の演奏曲目は、「J・S・バッハ作曲 ブゾーニ編曲:シャコンヌ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番」「ムソルグスキー作曲:組曲展覧会の絵から」「ショパン作曲:幻想即興曲嬰ハ短調作品66」そしてアンコール曲としてしいきアルゲリッチハウスでの、1時間近いスペシャルイベントが終了して、牛田さんに再びお伺いしました。セルヴィアーノグランドハイブリッドを演奏してみて、どのような印象をお持ちですか。ピアニストにとって大切な鍵盤タッチはいかがでしたか。「ラフマニノフ作曲:パガニーニの主題による狂詩曲から第18変奏」の4曲が演奏されました。

特に「ムソルグスキーの展覧会の絵から」は、牛田さんが昨年発表したCDに収められていて、「作曲家がピアノという楽器の響きを大切にした作品だと思います」と語られるように思い入れのある作品。今回はこのイベントのために短く抜粋したもので、丁寧なアーティキュレーションとともに、物語性豊かに演奏されました。いきアルゲリッチハウスでの、1時 間近いスペシャルイベントが終了して、 牛田さんに再びお伺いしました。

今日演奏した、しいきアルゲリッチハウスですが、
いかがでしたか。

細やかなニュアンスがお客様の耳に直接届く、室内楽的でとても内省的な作品が似合うホールだと思いました。まさに王侯貴族の館で、お客様の目の前で楽しんでいただくような親しみを感じる空間ですね。普通のホールですと、お客様の耳に音が届くまでにひとつの壁を感じるので、そこを抜けるための弾き方をします。しかしここでは、サロンで弾くように柔らかく演奏することで、音が一旦天井に上って、それが一度に降ってくるような自然な音楽が届けられるという印象を持ちました。ですから、演奏者もお客様も同じ音が楽しめるんですね。

セルヴィアーノ グランド ハイブリッド を演奏してみて、
どのような印象をお持ちですか。

まず、ピアニッシモの小さな音のレンジ、種類がとても豊富で、響きにごまかされず、クリアに聞こえました。ダイナミックレンジを広げる上で、いちばん大切な核となる部分で、それによってピアノの個性が決まってくるんですが、その部分の種類が本当に多いと思いました。例えば、曲によって音色の弾き分けをするだとか、場合によっては音色を変えるだとか、そういう時、どんな作品であっても最適な音色を作り出せるだろうと思います。
3つのピアノの音色も、ベルリン・グランドの音はブリリアントなので、ドイツ音楽などのクリアな音作りが求められるものに良いと感じました。ハンブルク・グランドは共鳴するような響きがあるので、例えばペダルでリバーブを効かすような効果を作るのがやりやすいと思いました。ウィーン・グランドは、和声、和音のような音符で進んでいく音楽よりも、単一のメロディーが繋がっていくような、例えばショパンだったり、ノクターン調の音楽に合うと感じました。

ピアニストにとって大切な鍵盤タッチは
いかがでしたか。

グランドピアノにとても近いです。アコースティックピアノとしてみたときも、弾きやすい部類に入りますね。まず、鍵盤の形が手に指に馴染みやすいですし、鍵盤の深さも充分な深さがあって、音色をコントロールできるという意味ですごく弾きやすかったです。打鍵して音色の違いをしっかり出すことができるんです。自分の音楽の表現ができると感じました。

最後に、牛田さんにとってピアノとは
どういうものでしょうか。

生活の一部です。親友と言っても良いですね。小さい頃からいつも傍にありました。つまり音楽とともにあったと言うことです。その意味で、とてもしあわせだと思います。

控え室でのインタビューを終えて、ふっとピアノに向かった牛田さんの手から、バーンスタインの曲が小さく流れてきました。これから、ジャズをおやりになるようなことはあるんでしょうか、とお聞きすると笑顔でピアノを弾きながら、「必要な練習を重ねて挑戦してみたいですね」と。基本をしっかり学びながら、つねに新しい音楽に取り組む、輝くような若きピアニストの素直な言葉がありました。牛田智大さんとセルヴィアーノ グランド ハイブリッド。ふたつのパフォーマンスの出会いが、「表現」の新しい世界を作り上げました。

未来の小さなピアニストたちからの花束贈呈

牛田智大

1999年いわき市生まれ。6歳まで上海で過ごす。3歳でピアノを始め、5歳で第2回上海市琴童幼儿鋼琴電視大賽年中の部第1位受賞。8歳の時から5年連続でショパン国際ピアノコンクール in ASIAで1位受賞。12歳の時に第16回浜松国際ピアノアカデミー・コンクールで最年少1位受賞。3月に日本人ピアニストとして最年少(12歳)でユニバーサルミュージックよりCDデビュー。国内外楽団との共演を重ねており、2016年小林研一郎指揮ハンガリー国立フィル日本公演のソリストを務めた他、2017年3月にはバンコクにてタイフィルハーモニーと共演。

DATA

2015年、5月オープン。アルゲリッチ芸術振興財団の名誉理事 椎木正和氏からアルゲリッチを顕彰し贈られた音楽サロン。150人収容。アルゲリッチ専用ピアノ「マルティータ」が設置され、ステージと客席を分けず、ひとつのフロアにレイアウトすることで、自由な音楽空間を創造。クラシック音楽の殿堂そして知的創造空間を目指す、コンパクトなサロンです。

− しいきアルゲリッチハウス 〒874-0903 大分県別府市野口原3030-1 TEL.0977-27-2299 FAX.0977-27-2301http://www.argerich-mf.jp

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